鳥と茶の湯2023/07/25 21:22

まずはじめに、鳥を愛する方には不快な内容かもしれないことを、予めお詫び申し上げる。鳥を愛でながら、一方でこういう道具を使うとは、我ながらヒトとは罪深いものであると思う。
鳥の羽は、寝具や装身具、あるいは羽ペンや羽箒(はぼうき)などの材料として、洋の東西を問わず昔から利用されている。茶道でも、座箒、羽箒、組小羽根(小羽箒)など、鳥の羽を使った道具が使われる。
上掲の写真は、上から座帚(白鳥)、座箒(不明)、羽箒(野雁)、右側の小さいのが組小羽根(茶器の口などを清めるのに使われる)。

一番大きな座帚(掃込)は、小間での炭点前の最後に畳を清める座掃きと呼ばれる所作に用いられる。写真のものは柄の端から羽先まで55cmある。千家では白鳥の片方の羽で作られたものが使われる。座敷の形式によって右羽、左羽が使い分けられるが、貴重なため、左右はあまり問われないようである。
当然ながら、今では白鳥の翼を手に入れることはできないから、綺麗な座箒を入手するのは困難になっている。

最もよく使われるのは、炭点前(茶を点てるときにちょうどよい湯相になるように、客の前で亭主が炉又は風炉に炭をつぐ点前)で用いる羽箒で、鳥の羽の主に風切羽を三枚(流派によっては一枚)重ねたものである。炉縁、炉壇、五徳、風炉や釜の蓋に散った炭の粉や灰を掃き清めるのに用いられる。
羽箒にも右羽と左羽があり、利休以来千家流では右は風炉に、左は炉に用いると教えられている。そして、左右の区別は、羽軸の両側(羽弁)のうち右側が広い方が右羽とされている。なぜ炉に左羽なのかという理由は教えられていないが、tsubakiwabisuke氏のブログによると、ある裏千家の業躰さんは、地面に摺れている羽(地ズリの羽)は強いから、炉は地摺りの羽箒を使うと言われたそうである(https://rendezvou.exblog.jp/5152150/)。つまり、炉でも風炉でも掃くのに使うのは羽箒の右側の羽弁であるが、炉では羽箒で炉壇や五徳を掃く所作があるから右の羽弁が強い羽(地面に擦れる方)である左羽を使い、風炉には侘茶で主流であった土風炉(素焼きの陶器に漆で塗り固めたもの)には右の羽弁が柔らかい右羽を用いると考えると納得がいく。羽箒師の杉本鳳堂氏は、左右は羽弁の幅ではなく断面形状で考えておられるとのことであり(下坂玉起著「羽箒に関する基礎調査研究」、大日本茶道学会ウェブサイトhttp://www.santokuan.or.jp/wp/wp-content/uploads/2014/12/H19_P24-37.pdf)、上記のことと符合する。 侘び寂びを旨とする表流の道具の中でも、羽箒は比較的鑑賞性の高い華やかな道具だろう。
上から野雁(左羽)、姉羽鶴(右羽)、白鷴、雉、青鸞の羽箒。 アネハヅルは、ワシントン条約の附属書には掲載されていないがツル科全種が附属書IIに掲載されており、セイランも附属書IIに掲載されている。したがって、商業目的の取引は可能であるが、輸出許可書等が必要である。購入者としては、真っ当な茶道具店やデパートで販売されているものは、正規な輸入品から作られたものであると信じる他はない。
オークションや骨董市では犬鷲や島梟の羽箒が販売されている。これらの鳥は、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)で、羽やその加工品の売買や所持が禁じられている。同法によれば、例えばトキの羽を拾って自分で所持することは違法ではないが、人にあげると5年以下の懲役または500万円以下の罰金に処せられるようだ。したがって、貴重な鳥の羽箒は迂闊に買ったり所持したりしないように注意しなければならない。
これらは、掴み羽という道具で、箱炭斗に添えられたり掛軸のほこりを払うのに使われる。

いろいろな伝統工芸で、技の継承の問題だけでなく、天然材料の枯渇や保護のため、古来使われてきた道具の入手が段々難しくなってきている。鳥の羽もその一つだろう。羽箒類は、大事に使い、虫食いに気を付ければ、数100年持つらしい。動植物を保護することが第一であることに疑いはないが、既に現存する道具を後世に伝えていくことも大事なことだと思う。実際、朱鷺の羽箒というものが茶家や香道家に伝わっている。しかし、そのような道具を人に譲渡することが犯罪になってしまう可能性があるとすれば問題だ。法規制前から存在するものにも遡及するのか、相続や一定の管理下での譲渡に例外があるのか、調べ切れていない。

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