学名と標準和名-基亜種とは? ウグイスを例として2023/07/08 15:09

先の記事のとおり、ウグイスの基亜種であるハシナガウグイスの学名はHorornis diphone diphoneであり、種小名(真ん中のdiphoneと亜種小名(三番目のdiphoneが一致している。 それとは逆に、標準和名では、基亜種ハシナガウグイスの亜種和名は種和名(ウグイス)と一致しておらず、種和名と亜種和名が一致しているのは本土の亜種ウグイスである。
なぜだろうと疑問が湧いたので、「基亜種」について調べてみた。

国際動物命名規約第4版には「ある種が亜種を含むと考えられる場合、その名義種の担名タイプを含む亜種は、その種と同一の種階級群名で示され、同一の著者と日付を担う。この亜種を名義タイプ亜種という用語でよぶ」と定められている(条47.1)。

上の定義は私のような素人には難解な文章だが、「担名タイプ」は学名の基準となった標本、「種階級群名」は種小名のことで、「名義種の担名タイプを含む亜種は、その種と同一の種階級群名で示され」とは、学名の基準になったタイプを含む亜種は種小名で表されるということのようだ。言い換えれば、「レッドデータブックとっとり第2版」の用語説明(https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/704255/yogo.pdf)にあるように「最初に新種として記載されたほうの特徴をもつ亜種を基亜種または原名亜種とよび、種小名と亜種小名が同じになる」ということだ。そして、基亜種や原名亜種といわれてきたのは、この名義タイプ亜種のことだ。
ウグイスは、基亜種ハシナガウグイスでは規約どおり種小名と亜種小名が一致していて、亜種ウグイス(H. diphone cantans)や亜種リュウキュウウグイス(H. diphone riukiuensis)では、種小名とは別の亜種小名が付けられているのは、最初にハシナガウグイスが新種として登録され、その後に亜種ウグイスやリュウキュウウグイスが登録されたからだ。

因みに、ウグイス(Horornis diphone )の場合、Horornisが「属(名)」でdiphoneが「種(名)」と思われがちのようだが、上記規約(条5)によれば、種名(species name)は属名(genus又はgeneric name)と種小名(specific name)の結合(二語名)であり、「Horornis diphone」が種(名)ということだ。このspecific nameとspecies nameの区別のために、日本語では種「小」名と訳されたのだろう。

一方、標準和名については規約のようなものはなく、産業界や学界などで慣習的に用いられてきたものに過ぎない。鳥類では、日本鳥学会が発表している日本鳥類目録における標準和名が定着している。そこでは、主要な亜種の和名は種和名と一致させるという原則がある(日本鳥類目録第6版「はじめに」。但し、第8版では例外が設けられている)。そして、爬虫類両生類学会報 2000(2):99によれば、日本産鳥類リスト(日本鳥学会目録編集委員会, 1997)には種・亜種の和名の選定の原則をあげられていて、それによれば、「日本に二亜種以上が存在する場合(迷鳥を含む)、日本で繁殖する亜種(2亜種以上繁殖する場合は本州、特に本州中部以北の亜種)、もしくは一番普通の越冬亜種の和名は種の和名と同じとし、その他の亜種にそれぞれ別の亜種名を与える」とのことであり、種名の「タイプ種」の替わりに、種和名のタイプとして「普通種」が用いられると考えればよいだろうと結んでいる。そのような例としていみじくもウグイスの例が挙げられている。
因みに、メグロでは、主要な(というより現在では唯一の)亜種はハハジマメグロで、基亜種はムコジマメグロであって、メグロという亜種名がないのは上記例外によるものらしい(日本鳥学会 鳥学通信「日本鳥類目録第8版の編集について」(http://ornithology-japan.sblo.jp/article/189745707.html))。

結局、亜種名が種小名又は種和名と一致しているのは、学名では先に登録された亜種であり、標準和名では主要な亜種であるという違いがあり、ややこしいが、コマドリやアカヒゲの学名に比べればマシな方だろう。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
鳥の英語は?

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://chatsubo.asablo.jp/blog/2023/07/08/9600387/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。

にほんブログ村 鳥ブログ 野鳥へ
にほんブログ村

👆 👆 👆
ご協力お願いします